「フレデリック・ブロンディール」工房訪問レポート 

「フレデリック・ブロンディール」工房訪問レポート 
日本でのBtoB販売を開始したベルギーのビーン・トゥー・バーのクーベルチュールチョコレート「フレデリック・ブロンディール」。同ブランドのアドバイザーを務めるリヴレーブ 石黒氏、フキアージュ 畠山氏、オーフィルドゥジュール スーシェフ 面川氏、グラン・ヴァニーユ 津田氏、4人の日本人シェフとともに、ブリュッセル郊外にある工房とショップを訪問。焙煎からコンチングまで一貫して品質を追求する製造工程を見学するとともに、ブロンディール氏のチョコレート作りに対する哲学をうかがいました。 

▲左から)石黒啓太氏、津田励祐氏、フレデリック・ブロンディール氏、畠山和也氏、面川裕一氏 
 

工房に息づく職人精神と品質へのこだわり 

「フレデリック・ブロンディール」の工房兼ショップは、ブリュッセル中心部から4kmほど北西に位置するコクルベールにあります。ショップには約15席のイートインスペースが併設されていて、ガラス窓の向こうに工房が見えるつくりになっています。 

▲工房兼ショップ入り口
▲ショップにもカカオ豆を陳列。2019年と2025年、フランスの食の専門ガイドブック「ゴー・エ・ミヨ(Gault & Millau)」が選ぶブリュッセルのベスト・ショコラティエにも選ばれています 

三代続くコーヒー焙煎家に生まれたブロンディール氏は、料理人としてキャリアをスタートした後、1994年にベルギー西海岸で150㎡のショコラティエ工房を開設。2006年にブリュッセル市内へ進出し、2013年からビーン・トゥー・バーを本格化させました。2017年から稼働している現在の工房兼ショップは3000㎡の広さを誇り、クーベルチュール、タブレット、ボンボン・ショコラ(ベルギーでは「プラリーヌ」と呼ばれる)、ヘーゼルナッツのスプレッド、アイスクリームなどを製造しています。 

規模が拡大しても、培った技術と職人の手作業、品質を優先する姿勢を貫き続けています。クーベルチュール作りに関しても、機械化を進めると同時に、全工程を通じて常にブロンディール氏の確かな目が行き届いていました。 

産地から届いたカカオの袋が並ぶ保管庫  
カカオ保管室の外に置かれたバナナの木。バナナの葉はカカオ豆の発酵に使われる。※ここでは観賞用として配置 

生産者との信頼関係が支えるカカオ調達

まず、カカオ豆の購入は、ブロンディール氏みずから現地に赴き、その目で厳選し関係を築いてきた農園からのみ。専用の倉庫に、南アジアやドミニカ共和国をはじめ、カリブ諸島やアフリカなどから届いた麻袋を保管しています。ブロンディール氏は、一つ一つの豆を手に取りながら、豆の特徴、乾燥や発酵の状態、栽培者や農園のストーリーを次々と語ってくれました。 

世界的にまだ貴重な存在であるインド産カカオは18年前から扱っており、南インドのケララ州にあるゴー・グランド農園のもの。「豆の色も完璧。ベルギー出身のエンジニア夫妻が営んでいるため、現地での乾燥・発酵の作業が完璧に管理されています」と信頼を寄せています。 

また、カリブ海に浮かぶセント ビンセント島には、カカオ栽培をゼロから立ち上げたマリオット家の農園があります。「事業を始めた頃からの付き合い。品質の向上を見てきたので思い入れもあります」と。 

一つ一つのエピソードから、ブロンディール氏が生産者と強い信頼関係を築いていることが伝わります。 

セント ビンセント産カカオ。甘酸っぱさと力強いアロマを持ったチョコレートに仕上がる  

インド・ケララ州のカカオ。味の余韻が長いのが特徴 
カカオ豆の香りを確かめるアドバイザーシェフたち 

農園で行われる発酵や乾燥の良し悪しが豆やチョコレートの風味に影響を与えるため、現地での作業についてもブロンディール氏自身がチェックを行います。2026年6月には娘のエロイーズさんとサントメの農場を訪問し、10月には取引のあるセント ビンセントの農場に行く予定だそう。 

袋を開けると、色や大きさが不均一のカカオ豆も。「同じ農園で栽培されても、場所によってカカオの品種や日照が異なりますし、収穫年や天候にも左右されますから、安定した品質を得ることは簡単ではありません。妥協はしませんが、受け入れなければならない点は受け入れます。自然と闘うことはできません」 


技術と経験が支える製造工程へのこだわり 

高温で焙煎を行うことで質を一定にすることも可能ですが、ブロンディール氏はその選択をきっぱり拒否。「焙煎は欠点を隠すためではなく、カカオ豆の風味や香りを引き出すために行う工程です」 

自然の産物であるカカオの状態を日々見極め、小ロットずつ手間をかけ、低温でじっくり焙煎します。 

「最高のカカオ豆だから最高のチョコレートが生まれるわけではありません。必要なのは技術。どんな風味を得たいかを念頭に置き、焙煎の温度や時間を管理し、いつ焙煎を止めるか。それを決断できるかどうかが重要です」 

焙煎を止めるタイミングは、豆の色、香り、酸味、水分など、多様な要素が絡み合って決まります。さらに「使用目的がクーベルチュールなのかガナッシュなのか、誰に向けて作るのかによって、焙煎の温度や設計は変わります」 

カカオ豆ごとに対応する難しさを訊ねると、「そう難しくはないですね。経験に裏付けられたポジティブ思考なんです」と笑顔で答えてくれました。 

何度も強調していたのは、焙煎だけでなく、全工程で配慮が必要だということ。焙煎後にカカオニブを取り出す際は、皮を完全に取り除くことも重要だと言います。 

▲焙煎前のカカオ豆 
▲焙煎したカカオ豆
 ▲粉砕したカカオニブ 

皮を除いたら、カカオニブをすりつぶしてペースト状にし、練り上げるコンチングへ。 

コンチング時間は24時間。「長時間行う方がより良い結果になるという意見もありますが、私はそうは思っていないんです。カカオ豆には酢酸と果実香から成る酸味が残っていて、コンチングによって果実香を残しながら酢酸を取り除きます。ただし酸は糖へと変わっていくため、コンチングの最後に酸味が軽く残っていても問題はないと考えています」 

▲グラインダーでカカオニブをすりつぶしてカカオマスに。さらにコンチングを行って練り上げる 
テンパリングを行い、艶のあるチョコレートが完成 

最新機器と科学的な分析、さらに五感を研ぎ澄ませた観察眼と、職人としての経験に基づく調整を加えながら、チョコレートが作られていきます。「チョコレート作りのカギは時間をかけること」という言葉通り、手間を惜しまない、細部までこだわった姿勢が味に表れます。 

さらに、香りを補完したりマスキングしたり風味をマスキングしたりする目的で加えられることが多いバニラも不使用。全工程でいっさい妥協を許さない姿勢が、ピュアでありながら味わい深いクーベルチュールを実現したといえるでしょう。 

コーティング作業風景/室温は24℃
▲ボンボン・ショコラのコーティングには、セント ビンセント ダーク70%のクーベルチュールを使用

生き生きとしたストロベリーを思わせる果実味が広がるインド産、チェリーのフレッシュな酸味とドライいちじくの凝縮した甘みが特徴のドミニカ、トロピカルフルーツと甘酸っぱさに力強さが伴ったセント ビンセント。ブロンディール氏のクーベルチュールは、軽やかな酸味が特徴的です。 


フレデリック・ブロンディール社のチョコレート哲学 

ビーン・トゥー・バーを始めた当初、酸味のあるチョコレートは売れないと指摘されたそうですが、タブレットの売り上げは翌年、なんと5倍に上昇。チョコレートの真の味と香りが消費者に認められたのです。 

「チョコレート作りに携われて幸せです」と笑顔で語るブロンディール氏。自然を尊重し、カカオの個性を表現したクーベルチュールが、チョコレート菓子やパティスリーの新たなクリエーションにつながっていきます。 

▲工房を見学中のアドバイザーシェフたち 
 

パティシェの想像力を広げるクーベルチュール 

▲ドミニカ共和国産カカオ70%のバトンショコラ 
▲バトンショコラを使ったパン・オ・ショコラ(ブリュッセル内のベーカリー「シャルリ」) 
▲バトンショコラを使ったパン・オ・ショコラ(ブリュッセル内のベーカリー「シャルリ」) 断面

 アドバイザーシェフのコメント 

リヴレーヴ 石黒啓太 氏 

カカオ豆やチョコレートに対するブロンディール氏の情熱を間近で見ることで、商業的な大量生産のチョコレートとは違う価値の高い製品であることを実感し、使ってみたいという気持ちがますます高まりました。これからアイデアをじっくり練って、この製品を生かした作品に昇華したいと思います。 

フキアージュ 畠山和也 氏 

近代化された設備が整っている一方で、カカオ豆の選別から豆ごとに行う焙煎まで、経験と知識が生かされていると感じました。ブロンディール氏の情熱を日本に伝えていきたいです。チョコレートの特性を生かすには、テクニックを重ねるのではなく、シンプルな形で表現するのがいいのではないかと考えているところです。 

オーフィルドゥジュール スーシェフ 面川裕一 氏 

商品に対する深い愛情を感じました。特徴であるフルーティーさを生かした製品を作れば、チョコレートの可能性がさらに広がりますし、ヴィエノワズリーにも使用すれば、年間通してチョコレートの消費量を増やすことにもつながります。製品の価値をより高めるアイテムを作らなければと、使命感を覚えています。 

グラン・ヴァニーユ 津田励祐 氏 

隅々まで目が行き届いた工房で、大量生産の商品とは一線を画すチョコレートだと実感しました。皆さんにもその違いをアピールしていきます。講習会で使っていく予定ですが、製造工程を拝見したことで、さらに考えが深まり、ひとひねり加えたパティスリーを考えるモチベーションになりました。 


➣カタログは下記よりダウンロード可能です。